ドクターからの説明1.軟骨無形成症について 2.軟骨無形成症の延長について・柏木直也先生
 

■軟骨無形成症について

滋賀県立小児保健医療センター
整形外科  柏木直也
理学療法士 田所愛理
作業療法士 東條美恵

わたしたちは軟骨無形成症の上肢や下肢の延長に長い間携わってきました。今日までに延長の適応や限界についてはかなり多くのことがわかってきて、手技的にも確立してきたと思います。骨延長は長い治療期間を必要としますし、本人や御家族の負担も軽いとは言えません。しかし、モチベーションが十分にあれば効果が確実に得られる唯一の方法です。わたしたちは延長術を行うのに適切な年齢のおおよその目安は8歳以上と考えています。それではそれまでの間、どのようなことに注意して生活すればよいのでしょうか。今回は延長術を行うまでの期間の留意点、すなわち、やっておきたいこと、やってはいけないことをお話ししたいと思います。

1. 乳児期

軟骨無形成症のこどもたちは大後頭孔の狭窄を伴うことが多く、水頭症の合併も見られます。神経学的徴候や呼吸の問題があるかどうかは非常に重要です。軟骨無形成症に詳しい小児神経科あるいは小児脳神経外科の医師を受診することが必須と思います。ただ、手術を必要とするほどの重症例は稀で、ほとんどのこどもたちに知的問題はなく神経学的にも正常です。偽性軟骨無形成症や脊椎骨端異形成症などと異なり頸椎の問題もほとんどありません。不必要な運動制限を受けているこどもさんを時々お見かけしますがこのあたりのことが混乱されているのではないでしょうか。 さて、乳児期の運動処方について座位ができるまでと立位ができるまでにわけてお話ししましょう。

A. 座位ができるまで 自分の体を支えたり物を持ったりするための安定した肩・股関節を作り、座位の準備をするのが目的です。体幹の筋力が十分に発達するまでに座位を無理強いすることは避けなければなりません。この時期に特徴的な胸腰椎移行部の後弯変形を増悪させてしまいます。
軟骨無形成症児がこの時期に見せる運動のパターンは
@ 股関節屈曲位で下肢の空間保持はできるが骨盤のひきつけはない
A 上肢は肩関節屈曲が乏しく空間保持時間が短い もう少しわかりやすく申しますと仰向きに寝ているときにお尻を上手く持ち上げることができない、手も上手く持ち上げることができずおなかの上での使用となりやすい傾向にあります。

この時期に効果的な対策は、

I. 手を前に出しやすいように肩甲骨を軽く前に出し、おなかは筋肉が働きやすいように軽くお尻を持ち上げます。これはタオルロールを使うと良いでしょう。(両親が様子を見られるときから導入する)
II. 少しでも長い時間手足を伸ばして探索し続けられるように気をつけます。たとえばベビージムなどを利用します。もしくは、首からこどもの興味を引きそうなものをぶら下げてみます。ゴムの先につけると引っ張ると抵抗感が変わり興味を持つと思います。
III. また、床からの起きあがりは片手を支持に使うように首を支えて誘導すると良いでしょう。

B. 立位ができるまで(2歳頃まで) 安定した姿勢をとるために重心軸をつくり、重心が大きく動いても修正できるバランス能力を獲得するのが目的です。軟骨無形成症児がこの時期に見せる運動のパターンは、
@上肢は床につかないので下垂しているかバランスをとるためにやや外転している。
A上肢を操作に用いるとき空間での保持困難。物に手を伸ばす動作も瞬間的。手内操作はおなかの上に乗せてするか、台の上に乗せる。
B座位の持続時間は短く、すぐに寝転び、そしてまた起きる。これを繰り返して楽しんでいる。 つまり、低緊張であるため胸腰椎移行部の後弯から立ち直るだけの体幹筋力が不十分である上に、座位姿勢を維持するための上肢の支えもリーチが不足しているために困難となるわけです。両手操作も少なくなりがちです。

この時期に効果的な対策は、

I. 座位でベビージム等を利用して遊ぶ
II. 座位の時、大人の脚でこどものお尻をしっかりとはさみ、骨盤が後ろに倒れて背中が丸くなることを防ぐ。安定した座位の中での体重移動、またその修正を経験させる。
III. 全身を使って、しがみつく・押し続ける・引っ張り続ける要素を含む遊びを多く取り入れる。

2. 幼時期(就園・就学を考慮して)


両手動作・両手協調動作が必要となる時期です。軟骨無形成症児がこの時期に見せる運動のパターンは、
@ 立位時に体幹、特に腰椎部の前弯が強い。おなかで机などにもたれかかることが多い。
A 上肢操作は同側性に使用する。
B O脚になることが多い。
特に、上肢の同側性は両手動作や手指の巧緻性に影響を与えます。上肢の同側性というのはわかりやすく言えば、自分の右の方の動作は右手で行い、左の方の動作は左手で行うという軟骨無形成症のこどもたちにかなり特異的な運動のパターンです。体の中心線を超えて反対側を操作することが非常に困難です。 この時期に効果的な対策は、両手の操作範囲の重複する部分が増えるような(同時に体の安定性が求められる)活動を、生活において意識的に取り入れることだと考えています。たとえば、ふきんを洗って絞る、机をふくといった動作、お盆で箸などを運びお盆を持ったまま箸を配るお手伝いなどが有効ではないでしょうか。また、入浴時の洗髪、体を洗う動作も大事です。体の中心、反対側に意識的にアプローチすることを促します。
就学前動作(はさみ・折り紙・粘土・ラッピングなど)をしっかり行います。初めは援助しながら、大きく体を動かさないようにします。 スポーツでは水泳が良いでしょう。 O脚は歩行のパターンに悪影響を及ぼしますが、これはイリザロフ法による下腿延長時に完全に矯正することができます。

3. 上腕骨延長について

以上述べてきましたように軟骨無形成症では独特の運動パターンがあります。これをわたしたちは『アコンドロパターン』と呼んで、その解析と予防、治療法の確立に取り組んでいます。その原因は多々あるでしょうが、上肢の短いことが原因のひとつではないかと考えています。上腕骨の延長術によって単にリーチが増えて届かなかったところに届くようになったということのみならず、姿勢の保持や両手の協調動作の改善などにつながることがわたしたちの目標です。上肢長の改善は脊椎への負担を軽減する効果もあると考えています。また、下肢の延長術のみを行うと靴下やズボンがはきにくくなったりして、かえって日常生活動作が不自由になることがあります。そのときにも上腕骨の延長で問題は解決します。わたしたちが上腕骨の延長を重視するのはそのような理由があるからです。

4. 最後に

軟骨無形成症のこどもたちの独特の運動・発達パターンについては過去にはあまり取り上げられたことがなかった分野ではないでしょうか。わたしたちもここ数年、研究を開始したばかりでまだまだ未完成な部分がたくさんあると思います。今回お示ししたのは現時点でのわたしたちの考えであって、今後新しい知見が追加されたり修正されたりする可能性は十分にあります。 もっとも重要なのは軟骨無形成症に経験のある医師、理学療法士、作業療法士のチームと共にそれぞれのお子さんに最適の処方を考えていくことだと思います。

 

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